元JVCケンウッド音質マイスター 萩原光男 が行く「世界音紀行♪」 第4章

萩原光男さんが行く「世界音紀行♪」の第4回目、今回は萩原さんが音楽の都ウィーンにあるムジークフェラインザールというコンサートホールへ赴きます。

第4章 「大いなるムジークフェラインザール」

3月7日、この日はいよいよ待ちに待ったムジークフェラインザールのグローサザールでウィーンフィルのコンサートを聴くことになります。今回のウィーン旅行の大きな目的はこのホールで音楽を堪能する事でした。

ここで簡単にムジークフェラインザールの紹介をしておきましょう。

このコンサートホールは正月にニューイヤーコンサートを行い、その時々の人気の指揮者が出演することで有名です。小澤征爾さんも少し前に出演したことがあります。日本でも衛星中継されますのでクラシック音楽ファンの方は良くご存じだと思います。

このコンサートホールはウィーン楽友協会によって1870年に建設されました。当時はブラームスなどもここで指揮をしており、音質が最高に良いという評価で響きが豊なのが、特にロマン派の音楽に良いとされています。

ムジークフェラインザールの外観

出発前にネットで予約したチケットも昼間にチケットカウンターに行って受け取る事ができ、安心しました。ネット予約は簡単ですが、チケットを受け取るまでが心配です。

ムジークフェラインザールでコンサートを聴くのは二回目ですが今回は大きな目的がありました。

それは最高の音質を誇るムジークフェラインザールでウィーンフィルハーモニー楽団の演奏を聴くと言うことです。このホールはウィーンフィルの本拠地ですから、彼らが最もこのホールを知り尽くしていると言えます。最高峰のホールの音を、そこを知り尽くした最高峰の楽団の演奏で聴くということは、一つの「クラシック音楽」という分野の音のあり方を確認出来るということです。

ここで聴くことにより彼らが、響や音色、空間表現に関してどう考えているのかが解るのです。

「クラシック音楽」の世界と「音作り」の世界というパラダイムにおいては古典派、ロマン派の音楽と、それを演奏する第一人者的存在であるウィーンフィルハーモニー楽団の音は確固たる存在です。それを聴き、確認できるということは私の音人生でとても大きな意義のあることで、それが経験でき、達成されたのです。

それではムジークフェラインザールでのウィーンフィルハーモニー楽団の音色に浸るとしましょう。

曲目はロシア系です。

指揮者が ウラジミール フェドセイエフ

曲は

①Sergei Iwanowitsch Tanejew

Ouverture Zur Oper trilogie”Oresteia” Op6

②Sergei Iwanowitsch Tanejew

Ioann Damaskin. Kantate,Op.1

③チャイコフスキー №4交響曲

本来であれば、ベートーベンかモーツアルト、ブラームス、シューベルトあたりだと良かったのですがロマン派ということでよしとしましょう。

・1曲目の印象

1曲目は、知らない序曲ですが、弦のなまめかしさには驚かされました。弦の音が空間を漂い、なまめかしくメロディーを奏でました。このホールでは、音域によって響きの質が変わらないように壁面が良く調整されています。ホールによっては特定の帯域に強調感があり、その音で音楽をまとめてしまうという音作りがありますが、ここは音の全体域に渡って強調感がなく、とても自然です。ここでのライブ録音をいくつか聴いたのですが、キャラクター(個性)が無く、掴みどころが無いので、これは「ムジークフェラインザールの音」という録音媒体は聴いたことがありません。それほどオーディオ的にこの自然な音を再生するのは難しいのです。

いずれにしても、1曲目からこのホールを熟知している楽団員達による豊かな響きを堪能できました。

・2曲目の印象

2曲目はカンタータです。宗教曲で突然100人ほどの男女の合唱隊が狭いステージの楽器奏者の後ろに並びました。この場所で合唱を聴けるとは思わなかったので私にとっては大きな喜びでした。

この曲の演奏がまた素晴らしいのです。アルト(女声中音域)がゆっくり発声するとソプラノがアルトの上に響き渡り、テノール(男声の高音部)がそれに呼応するようにホール全体に響き渡りました。次の楽章では、音階を上昇していくアルトにバスが音階を下降し中声部が現れるところなども豊かな音に包まれる幸福感に満たされました。

・3曲目はチャイコフスキーの4交響曲

チャイコフスキーはトランペットの多用される曲が多いです。冒頭に響き渡るトランペットには突然なので驚きました。第1楽章は、ゴツゴツした感じの楽章なこともあってか、響きがホール全体に鳴っている感じが無くもう一歩でした。しかし、指揮者がいなくても自分たちだけで曲を演奏できるとも言われるウィーンフィルのこと、第2楽章は緩徐楽章ですからゆったりとしたテンポで各楽器がゆったり存分に響かせホールに響き渡りました。

繰り返すのですが、全曲を通してワルツを奏でるバイオリンは甘くとろけるように旋律が流れ、フルートの響きが空間に漂う様子はまさに天使が飛び交うようです。コントラバスの響きは立ち上がりから、その消え入るまでがその空気の固まりがわかります。トランペットの響きは、後ろの壁に響いて帰ってくる音がよくわかりフォルテではホール一杯に響きます。そしてフィナーレではホール一杯に金管のエキセントリックな響きと共に全部の楽器が響き渡る音はまさに圧巻でした。

ムジークフェラインザールの内部

壁には柱ごとに女性の彫像があります。(カリアティード)

ここのフィナーレの演奏はもうひとつの聴きどころです。ムジークフェラインザールのようなシューボックス型(靴を入れる箱のような直方形の形をしたホール)コンサートホールでは、音が飽和しやすく全奏時は表現が難しいと言われています。コンサートホールの設計ではフォルテの時にリスナーにいくらかの音の飽和感を感じさせて、その飽和感から来る歪み感でリスナーを説得する音作りがポイントです。まさにムジークフェラインザールを本拠地としている楽団が最高のフィナーレを演出した瞬間でした。

本当にこのホールの響きは豊かです。響きが建物から分離し漂い、リスナーを包み込みます。

旋律が豊かな響きによって厚みを付け、響きの中で旋律が揺らめく様子が何とも心地良い、音楽の快感の極地です。更にこのホールが世界的に高い評価を得ている理由の一つでもあるのですが、響きの質が音域によって均一であり「バランス」がとれていることです。

例えば、どんなにバイオリンの中高域の旋律が美しく奏でられても、その中高域にバランスする量感のある低音や包むような響きがなければ心地良くありません。そのような中高域と低域とか、音の透明感とその透明感を生かす響きのあり方など、音楽をより良く表現するための「バランス」がいろんなところで感じられるのです。

ここで聴いた音の経験は、そのことを熟知した楽団が、それを活かした最高の演奏をした、それを聴くことが出来たと言う、素晴らしい経験なのでした。

翌日はブラームスザールで室内楽を聞きました。

・東京ブラインド工業の吸音ブラインドの魅力

 

私達オーディオファンにとって、吸音ブラインドの魅力は、このブラインドが欧米音楽に適した音楽空間を作り出すことでしょう。

私は、吸音ブラインドが高音とかボーカルなどの音を改善するためなどの、対症療法的な音改善ツールではないところに魅力を感じます。オーディオで重要な透明感や静寂感の獲得のためにはノイズや暗騒音などS/Nを改善することが重要である、という、オーディオの音改善の基本から出発し、より広い帯域を改善できるのです。

つまり、吸音ブラインドは、中高域の響きや音色などの改善をするだけではなく、その響や音色のファンダメンタルな、低音域までも対策することができるのです。そのことが、西洋音楽の最重要項目である、空間表現や、通奏低音など低音の表現力を高めることになるのです。

響きや音色は楽器の低音部を充実させることでより改善されますが、一般的には低音の調整というのは難しいため、どうしても音を中高域で改善しようとする傾向がありますが、吸音ブラインドは響きの本質である低音部で調整することができるのです。

そして、その作り出す音の目標のひとつには、ここウィーンで体験できる音の世界にもあるのです。

シュツッツガルトでの展示会会期中も、その後ここウィーンへ来てからも、西洋音楽の音、吸音ブラインドの音の世界といったものを考えながら旅をしてきました。

今回の旅では、たくさんの西洋音楽の音へのアプローチの切り口をみつけることができました。

西洋音楽と吸音ブラインドというキーワードで、今後も旅のレポートをして行きたいと思います。