教会で心を癒そう その3

・対位法について復習しましょう

対位法とは、複数の旋律それぞれの独立性を保ちつつ、互いによく調和させて重ね合わせる技法です。対位法の中にフーガという手法があって、輪唱も対位法フーガの一つです。

「静かな湖畔」という輪唱で歌われる歌があります。
「静かな湖畔の森の影から、、、♪」と第一グループが歌うと、第二グループは少しずれて「(休止、、、の後)静かな湖畔の森の影から♪」と続きます。
それぞれのメロディは独立して歌われます。

対位法の歴史は、複数の音のハモリから始まっています。中世にはグレゴリオ聖歌という典礼文を歌う旋律集があり、その旋律にハモリを付けるようになりました。
このようなバッハの音楽は複旋律のポリフォニと呼ばれています。

一方、現代の主流の音楽は和声法といって、基本的には一つのメロディが主になって演奏され、情感豊かに歌われます。

対位法は複数の旋律が同時に独立して演奏されるのですが、特徴を挙げてみます。

*まず、相互の旋律の関係を一定に保つ為一定のテンポで演奏される
*その相互の関係を保つために緊張が生まれる

情感豊かな和声法に対して、対位法にある緊張感は独特のものです。崇高な緊張感が精神性を高め、高揚感を生むのです。

演奏家や音楽家はバッハの曲を演奏する際にどう感じているのでしょうか。
あるピアニストは、「バッハを演奏する時には、精神の高揚と身が引き締まる快い厳格さに心が包まれる」といいます。その演奏家にとってバッハの曲の演奏は特別なものなのです。

バッハが完成させた対位法そのものについてですが、多くの作曲家が、晩年、作曲家人生の終末において対位法に立ち戻っています。

ベートーヴェンは対位法を学び直して第八や第九交響曲を完成させました。ロマン派で自由な感性に溢れた歌曲を作曲したシューベルトは、若くして亡くなる死の直前に、彼の作曲家人生で初めて対位法を学んだことが伝えられています。
また、ジャズのマイルス・デイビスも終末期には対位法により近づいたのでした。
※ジャズの「カウンターポイント」が対位法のことになります。

三回にわたって、教会の音と、そこで演奏されることの多いバッハを取り上げました。

萩原光男