音・音楽の効用 その1

音や音楽は私達の身の回りに溢れています。時には騒音として避けられたりしますが、使い方次第で私たちの生活に役立つこともあります。
今回は、そのような音の効果的な使い方についてみていきましょう。

(1)朝の目覚めにバロック音楽を聴くこと

私は定年を過ぎてだいぶ年月が経っていますが、会社人生にはなかった習慣が身についています。
音楽もその一つで、朝目覚めるとバロック音楽を聴きます。NHKでは早朝にバロック音楽の番組がありますが、朝に合っているようです。

朝とバロック音楽について考えてみましょう。
このテーマを検討していくと、その奥にあるバロック音楽とヒトの精神性との重要な関係が見えてきます。

私にとって朝(寝起き)にバロック音楽が良いのは、テンポが一定で無機的なところがあるからです。揺れることが少ないので落ち着いて聴けます。
客観的でよそよそしい面もあるのですが、寝起きの私の心に律動を醸し出して、ベッドから離れる気持ちにさせます。

ロマン派や古典派の音楽のように、情動的に心を揺すられる音楽は困ります。一定のテンポで音楽が流れる中に今日のことをあれこれ考えていきたいのです。
普段は特にバッハが好みでよく聴きますが、スカルラッティー・クープランなども聴きます。因みに、音源は古いスマホをタブレット端末として使っていますが音には満足しています。

ところで、バロック音楽はポリフォニー音楽・複旋律で対位法ともいう、音楽形式を持っています。
一方、私達に馴染みのあるロマン派や現代音楽はホモフォニー音楽といい、単一の旋律線が主旋律として聞こえます。他の楽器や声部は、和声としてその旋律線を補完する役割を担います。
バッハは晩年には人気を失い時代から忘れ去られながらも、人生の最後までポリフォニー音楽・対位法を極めたのでした。

ポリフォニー音楽・対位法はどんな音楽でしょう。

「カエルの歌が聞こえてくるよ♪」というフレーズで知られるカエルの歌などの輪唱もカノンと言われており、ポリフォニー音楽・対位法の中の一つです。他に「静かな湖畔の森のかげから」などもあります。

一定のテンポで進行する、音楽の対位法。バッハを演奏すると、特に心へ働きかけてくると感じる演奏家は多いようです。そのため、作曲家が人生の最後に対位法に目覚める、という現象が多くみられます。

ベートーヴェンは終末期には対位法を用いた曲を多く作っていますし、歌曲に優れた作品を残したシューベルトも人生最後の数週間前に、対位法を学ぶためにその道の大家の門を叩いたのでした。
ジャズでは、対位法はカウンターポイントと言われますが、マイルス・デイビスは、対位法の作品をたくさん残して、彼も最後には、特に対位法を意識した、と言われています。

萩原光男