フジコ・ヘミングの音と音楽性 その1
~音の魅力と豊かな音楽性に迫る~
豊かな音楽性で多くの人を感動させたピアニスト、フジコ・ヘミングさん(以下敬称略)が2024年4月に惜しまれながら鬼籍に入られました。
92才で亡くなった彼女が音楽の世界で認知されたのは最後の約25年でした。

高評価で認知されるきっかけとなったのは、1999年2月に放映されたNHKのETV特集「フジコ~あるピアニストの軌跡~」でした。特集は大きな反響を呼び、デビューCD「奇蹟のカンパネラ」は、発売後3ヶ月で30万枚を売り上げ、ディスク大賞始めいろいろな賞を獲得したのでした。
多くの人が感動したのは、フジコ・ヘミングの音と音楽性です。今回から数回にわたって、彼女の音と音楽性に迫ってみようと思います。
早速、この二つについてアプローチしてみましょう。
- フジコ・ヘミングのピアノの音の美しさと魅力
彼女のピアノの音には輝きがあります。音が素早く立ち上がり、その効果で音のエッジがシャープでキラリとした輝きがあります。
立ち上った音の角は、切れ味鋭く輝き、しかしその直接音は消えるときは素早く消え、その後には反射音で作られる豊かな響きと余韻が広がるのです。
もう一つ、彼女の低音は格別です。輪郭が明確で太くパンチがあります。
昨年封切られた「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」の中で、同一時点で同じピアノを他の人が弾くシーンがあるのですが、音が違います。

その理由について、以下を読めば納得できます。
『調律師の証言』
2024年の9月にNHKで放送された「そしてまた、フジコ・ヘミングとともに」で、フジコ・ヘミングの演奏会時の専任調律師がこんなことを言っています。彼女の調律のキーポイントは「ピアノのキーを深く打鍵できるようにすること」だ、と。
キーを深く、ストロークを取って弾けるようにするのです。そうすると強い打鍵で音の輪郭が明確になります。
こうして、彼女の音が出来上がっているのです。
次回はフジコ・ヘミングの「歌う演奏」について触れていきます。
萩原光男