フジコ・ヘミングの音と音楽性 その2


~音の魅力と豊かな音楽性に迫る~

今回はフジコ・ヘミングの「歌う演奏」について触れていきましょう。

  • フジコ・ヘミングの音楽性

フジコ・ヘミングのピアノ演奏については、ピアニストのレオニード・クロイツァーを挙げなければなりません。
ロシア生まれのドイツ系ユダヤ人であるクロイツァーは、フジコ・ヘミングの父(スウェーデン人)の友人であり、母・投網子もベルリンで師事しました。

フジコ・ヘミングはクロイツァーに師事した母に4才から手ほどきをうけ、10才から東京芸術大学時代にかけて日本でクロイツァーの薫陶を受けます。彼女の音楽性はまさにクロイツァーからのものだったと言えるでしょう。

クロイツァーの演奏はとにかく「歌うこと」が大事だ、というもので、かなり粘っこい演奏だったようです。フジコ・ヘミングは母とクロイツァーから歌うことを教えこまれたのでした。

「歌う演奏」というと、目を瞑ってひたすら自分の中の世界に酔いしれて演奏するピアニストを何人か思い浮かべることができます。
そうした古いタイプの、耽溺するが如くの「歌う演奏」ではなく、フジコ・ヘミングの演奏は開眼して聴衆を意識しているところは大きな違いです。

彼女の演奏には、彼女自身の心の表現と、聴衆を意識した「音の美」の表現があることを感じます。

  • ピアノ演奏に関するフジコ・ヘミング自身の言葉

彼女はピアノ演奏についてこんなことを言っています(ウィキペディア フジコ・ヘミング語録より)。

①「技術的に私より上手い人はたくさんいる。でも、私の音は私にしか出せない」

②「私はミスタッチが多い。直そうとは思わない。批判する方が愚かしい」
 機械的にではなく、正確さよりも心がこもっていることが大事だと言っています。

③もう一つ「一つ一つの音に色をつけるように弾いている」と言っています。
 これはフジコ・ヘミングのレパートリーから理解する必要があります。

ドビュッシーは「光と色彩の作曲家」と言われました。そのほかにリスト、ショパン、ラヴェルも含めて絵画の印象派と重なる時代の作曲家です。そこでは色彩感覚が重視されたのでした。逆に彼女のレパートリーにはベートーヴェンがほとんどないのも記憶しておいてください。

このあたりは次の話題としましょう。

ひたすら「歌う演奏」を重視して修行したフジコ・ヘミング。しかし、ピアノ演奏は速く譜面通りに正確に、という時代の流れになっていくのでした。

次回は、彼女のレパートリーから理解するフジコ・ヘミングの音楽性について考えていきます。

萩原光男