フジコ・ヘミングの部屋 その2
~音楽家の部屋~
前回に引き続き、「フジコ・ヘミングの部屋」と題して音楽家の部屋について考察していきましょう。
(3)アンティークな家具に注目する
フジコ・ヘミングの本を読むと、「家具や置物にアンティークなものを好み、気に入ったものがあるとついつい買ってしまう」という話が書かれています。映像に残っている室内の写真を見ても、食器棚など年季が入っているものであることがわかります。
新しい家具の音・響きは明るいのですが、やや音が走り回るところがあります。
それに対して、「古いもの・アンティーク家具などの音」は落ち着いた渋みがあり、音色が細やかです。

「制作されて長い時間が経過したものの音」を考察してみましょう。
オーディオの世界には、「エージング」という言葉がありますが、これは時間の経過による機械的特性の安定化や、時間による熟成といった意味で使われます。
時間的なエージング効果を速めるために、高い温度を加えてそれを強制的に冷却し温熱でエージングを促進する技術もあります。焼き入れ・焼き生し、ヒートショックなどと言われます。
機械的部品は、作りたてのときはどんなモノでもストレスが残っていたり、部材間の接合部がなじまず、テンションの高い音や刺激的な音がしたりするものです。
そんな音がエージングでどうなるかというと、部材の機械的ストレスがなくなり、のびのびして自然で響きが豊かで細やかな音になります。「枯れた音」と言えるでしょう。

フジコ・ヘミングは東京での生活において、お母さんから引き継いだRC構造の古い家に住んでいました。この古い建物もフジコ・ヘミング的です。
また、いつも弾いていたピアノは母親から引き継いだ100年も前の歴史的なピアノです。お母さんがヨーロッパで使っていた古いものです。
このようにフジコ・ヘミングの住居はアンティークや古い建物、古いピアノなどで構成されており、彼女の空間は枯れた豊かな響きのモノで満たされていたと言えます。
アンティークなものに興味を持つなど、個々人の趣味嗜好がその人の音を決めていると言えます。その人の個性が部屋や音楽装置に現れるのです。
こうした部屋の響きを豊かにするアイデアを、音楽を愛好する私たちは参考にしたいものです。
萩原光男