音環境を理解するための10章 その3
3. 音環境を理解するための10章
~第1章 『日本人の音嗜好と欧米人の音嗜好』 萩原光男
「音環境」について考えていくのですが、まず初めに日本人と欧米人では、好みの音が違うという話をしましょう。
その原因の一つに、生活空間の違いを上げることができます。
日本の伝統的な家屋は、木と紙でできており、欧米は、石造りと言えます。
この違いが音感覚にどう影響するかというと、一番は低音です。
石造りの空間は密閉しているので、音は外部へ逃げないで篭(こも)ります。
音は、外部へ放出されるか熱となって消費されなければいつまでも消えません。
空間の不必要な音は吸音材で吸収するのですが、周波数が低くなるほど吸収しにくいのです。
閉じられた空間の中で、逃げ場のない低音は、籠り(こもり)、ヒトの心を追い込みます。
一方、日本の紙と木で作られた家屋では、音は外部へ逃げていき、籠ることはあまりありません。
日本の家屋では、紙や木が中高音を適度に反射します。
アコースティックで自然な響きがある明るい音の世界と言えるでしょう。
日本の仏教建築や神社などもそうした雰囲気です。
欧米の寺院や城郭は、日本のような自然で柔らかな音や響きに比べて、石からの硬い反射音です。
そこにたたずむヒトの心に、日本の明るい自然な感覚とは違う感覚を与えるでしょう。
石造りの空間での音も、明るい感じが持てますが、重量比のある石からの反射音は、威圧感や圧迫感をも感じさせます。
当然、そこに響きわたる音楽の味わいは違うものです。
そして、この石造りの空間では、吸音がむずかしい低音対策は最も重要で、また、そこでの低音の響きが欧米の音楽の特徴となっているのです。
とは言っても、日本もどんどんマンション住まいが多くなっていますので、これからは変わっていくでしょう。
日本と欧米で異なる音感覚は、居住空間の違いでもあります。
そんな音空間の違いの中にある安らぎを得るために音環境を改善するなどの提案を次回以降、行っていきたいと思います。