静けさについて考える

・雑音には音質を高める効果がある

雑音が音質を高める、と言ったら「どうしてか?」と問われてしまいますね。
静けさの追求と言っても、まったく音がない無音の無響室は逆に危険な場所です。
そうです、人体生理にはある程度の雑音が必要なのです。

この雑音と言う存在は、最高音質のコンサートホールと言われるムジークフェラインザールにおいても、音の良さの一つとなっています。

ムジークフェラインザールはウイーンの市街地の真ん中にあり、近くの道路には車の往来もあります。
このホールの側壁の上部には明かり取りの窓ガラスがあり、そこから都市騒音(暗騒音)が侵入していて、決して静けさで語れるホールではありません。勿論、その都市雑音は演奏される音楽を邪魔するレベルではありませんが。

音の美しさの中に演奏や音楽の微細なディテールが聴き取れることは、ムジークフェラインザールの良さの一つです。
暗騒音が微小レベルの音を嵩上げしており、聴きやすくなっています。

・雑音の存在が微小音のレベルを上げ良い音にする

例えば、低い音量の音や音楽パートがあったとします。静かで雑音のない環境ではそのままのレベルです。しかし、ここに雑音があると、イラストのように暗騒音で嵩上げされレベルが高くなって聴こえると言うわけです。

上野の東京文化会館は、設立当時上野駅の汽車の汽笛が聞こえないように設計されており、静粛さは一つの売りです。一方、ムジークフェラインザールは都市の暗騒音によって他では聞けない低レベルの音も聴こえるようになっています。

実は、デジタル音声技術でも同じようなことが行われています。
ディザという技術ですが、聴感を阻害しない雑音を加えることで、通常のデジタル処理では聴こえない微小な音が聞こえるようになっているのです。

萩原光男