3つの音のエッセイ その3

今月の音楽
今回のテーマである「日本の音の美」に合わせて、武満徹作曲のノベンバー・ステップスをご紹介します。

『季節の音を味わう』

水がらみで音の美を考えてきました。今回は、季節毎に考えてみましょう。
季節の音は、大気中の水分量と、大自然が育む季節毎の生物の営みで出来上がります。
また、欧米の音だけでなく、日本の音の美を清少納言の枕草子に見つけてみたいと思います。

まずは今の季節、冬からいきましょう。
冬の寒さといえば、ヒューヒューと木枯らしが吹きすさぶ「虎落笛」(もがりぶえ)です。寒風が柵や竹垣に吹き当たって鳴ります。
凍った雪原を渡る風を表現するためにシベリウスはバイオリンをキリキリと鳴らし、バイオリン協奏曲を書きました。

寒さと音の関係では、音速は低温になると下がるほか、大気中の水分が少なくなることによっても下がります。
植物は葉が落ちて枯れると、強度が上がりそこから出る音は硬く高い音になります。
やがて、春霞がかかる季節になると人の心も和らぎほのぼのとしてきます。木々の新芽、若樹など自然の音は柔らかになります。
そうこうしているうちに、暑さに蝉の声もうっとうしい夏が来ます。

季節の主役は水です。季節の音を水で科学してみましょう。
飽和水蒸気という科学用語は、1立方メートルの空気中に含むことができる最大の水蒸気量 をいいます。飽和水蒸気量は、空気の温度が高いほど増えていき、冬の寒い季節には許容量が少なくなります。
図は、その飽和水蒸気量と気温との関係を表したものです。

前述したとおり、晩秋から冬にかけての寒い季節は、大気の水分量が減り乾燥した季節です。建物の壁面や道路、大地も植物が枯れて乾いています。乾いた植物の葉や茎などは硬くなり、音が当たった時の反射音は高く硬い音になってすぐ消えていきます。
そして春から夏、初秋には水分が多く柔らかく優しく柔らかな音になるのです。こうして、季節の音が出来上がります。

西欧の音楽にある、乾いた季節に楽しめる良い音に対して、日本的な情緒ある音は四季を通じて楽しめます。

最後は、枕草子の、「いとをかし」の世界で締め括ってみましょう。

春は曙からスタートします。少しずつ白く明るくなり、気温が少しずつ上昇し、もやが消えて音も爽やかになっていきます。

夏は、昼の暑さはなんとかやり過ごし、夜の趣です。蛍も飛び、雨など降るも「をかし」と言っています。嫌われがちな雨も、心静かに味わえば風雅です。

秋は夕暮れ。夕日のさして、烏の寝どころへ行く頃、夜の風の音、虫の音が楽しめます。

冬の「雪の降りたるは、言ふべきにもあらず、」と雪の風情は格別です。シンシンと降る雪に世界は特別な静寂に包まれ、雪景色には特別な音の世界があります。

西洋音楽だけでなく、邦楽でもまたその趣を楽しみたいものです。
そんな日本の音を、今月の音楽ノベンバーステップスで楽しんでみてください。

萩原光男