3つの音のエッセイ その2

今月の音楽
今回のテーマである水の都市の話に合わせて、ヘンデルの水上の音楽をご紹介します。有名な第二楽章です。
*ヘンデル「水上の音楽」第二楽章

水辺の都市の音響学

水があることにより、水面での反射で音はどう変わるのでしょうか。
水の音と言っても水が飛び散る音ではなく、海や川などがある水辺の街で、街の音がどう影響されるかと言う話です。
港街の音と、そこにあるコンサホールの音について考えてみましょう。

図は、水面の反射音特性(音の伝達の周波数特性)を表したものです。
例えばプールが水で満たされていると、低音と中高音が少し持ち上がりそこから外は下がります。人の声などの中音は少し下がります。

音のイメージでは、低音は少し持ち上がりますが超低音は弱く感じます。人の声やチェロ、管楽器などの中音は少しツルンとした、平面的な音です。中高音は盛り上がっているので、やや張りがあります。超高音のバイオリンなどは、適度に艶が乗って生き生きと聞こえます。
雨の日の水に濡れた屋外や水辺の音はこんな感じではないでしょうか。

水辺の都市アムステルダムや横浜などの港街を歩くと、同様の音がします。都市騒音は低音が少し豊かで、中高域が張っています。

コンサートホールの音はどうでしょうか。
横浜にある神奈川県立音楽堂には、あまり「水」のイメージはありません。厚いコンクリートで作られているので影響がさほど感じられません。

しかし、アムステルダムのコンセルトヘボーホールでは楽器の音に艶がのっており、「水のイメージ」があります。このコンセルトヘボーホールでは会場の側壁上段にズラッとガラス窓があるので、外部の都市騒音が低レベルながらホールに侵入するのです。
何故ガラス窓があるかと言えば、このホールが設立された1980年代は明かり取りの窓が必要でした。

ついでに、ウィーンのムジークフェラインザールは平原の都市の音ですが、ここも明かり取りの窓ガラスから低いレベルですが都市騒音が侵入します。その都市騒音の存在が影響し、ムジークフェラインザールの音は厚みのある音になる、と言えます。

音の三大コンサートホールと言えばこの二つにボストンシンフォニーホールが加わりますが、三つとも窓があるのはこの時代の建築物の特徴で、それが三つのホールに共通した音になっているのです。
(上記の有名コンサートホールの音傾向とその理論付けは、筆者の音響における経験によるものです)

萩原光男