音はどう記憶されるか その1
音や音楽はどう理解され、記憶されるでしょう。
長いこと音と関わってきて、今回は改めて音はどう記憶されるか、音を思い出すときにどう思い出すかについて考えてみました。
音・音楽の記憶と言えば、モーツァルトがバチカンのシスティーナ礼拝堂を訪れて、門外不出の秘曲を一回聞いただけで暗譜してしまった話が有名です。
9声部の複雑な曲をモーツァルトはどのように覚えたのでしょうか。
この話は別の回で扱うことにして、今回は一般的に音を理解して記憶するときに何が重要かを考えてみましょう。
・一対比較法(※)で音を評価・理解する
まず、絵画などの視覚分野ではどうするか考えてみましょう。
絵画や物体や色などの視覚上の比較は、同一視覚面に置いて視線を瞬時に移動することで可能です。色の違いなどは左右に比較対象物を置いて、視線を移動すれば良いのです。
音は、複数の音を同時に出して比較することは流石にできません。そこで、2つの製品を並べておいてスイッチボックスで切り替えて聞く一対比較法を行います。
ただ、一対比較法は良い方法ではありますが、私の経験上これには欠点があります。
それは違いを見つけることが目的になってしまい、音に強調感が出てしまうことです。特徴的だったり強調感があったりする音が良い音になってしまうのです。
二つの物を比較するという方法は、芸術的、本質的理解としてはレベルの低いものになってしまいかねません。
やはり、物や音を芸術面で感覚的に理解しようとすると、心の中に音や音楽の基準を作り、イメージを作り上げて判断することが大事だと思います。
絵画や色彩でもそうですが、情景として記憶することが重要になります。「音」単品ではなく音響空間の中で音は出来上がっているので、その音空間の音響的理解が必要なのと、音を聞いたとき心に残った印象が大事です。
※一対比較法…「被験者に刺激を2つずつ組にして提示し,感覚的印象の大小や好嫌などについて評定あるいは選択させ,刺激の主観的価値を計量化する方法」(コトバンクより)
萩原光男