反射音について その3
究極の反射音利用として考えるコンサートホール
反射音に関して、その効果を最優先に取り込んで建築設計しているのはコンサートホールです。
中でも、最高の音が響くホールと言われるウイーンのムジークフェラインザール(ウィーン楽友協会)、その反射音の利用方法は特別なものがあります。

ここのホールが高音質な理由の一つには地勢的なものがあります。ウイーンが内陸で大陸性気候のため、昼夜の寒暖差が大きく、空気が乾燥していることにあります。
日本から安いバイオリンを持って行ってもウイーンで弾けば名器になる……とは言い過ぎですが、かなり良い音になるのです。
建築設計的な面から見ると、第一に音を良くするために直接音や反射音に配慮して作られていることは当然と言えますが、今回は難しい話ではなく、前回からの流れでこんな音響的配慮がされているという話をしましょう。
それは、このホールの客席が音質最優先で作られていることです。
客席の椅子について論じるわけですが、ここの椅子は木部剥き出しで"座り心地"は良くありません。しかし、その椅子の貢献により音は最高なのです。


このホールの音には「音に包まれる最高の幸福感」があります。
直接音の美しさもさることながら、中低音が身体を包み込み、中高域は天国にいるように柔らかく輝きに満ちています。
その高域のきめ細やかさは、絹糸の様、と同行の友人が言っていました。
この包まれ感の秘密は客席での反射音にあります。客席の床はフローリング、椅子も木部剥き出しでそこからの反射音が豊かなのです。床から、自分の座っている椅子や隣の椅子の背中や背もたれから、反射音がリスナーを包み込むのです。
私もここで聴いたとき「こんなに美しい音があったのか!」と感激しました。
同じように、何人かの日本人オーディオ評論家がここでの音に落涙するほど感銘を受けました。その感動が日本のオーディオの創世記にあり、オーディオ界を牽引したのでした。
コンサートホールでの音の聞き方に、もう一つ付け加えておきましょう。

コンサートホールの座席の値段はホールの中央部分が高く設定されています。
音楽的には、真ん中だとオーケストラなども楽器の配置通りに聞こえるので理想的です。
では、中央に座り音楽的にバランスが良いのが最善かと言うと、いろんな意見があります。
音はどうでしょう。
壁ぎわというのは意外と音が良いものです。
大きなホールでは、音響的には真ん中は避けた方が良いと言えます。左右の壁面からの反射音が薄く、音楽的に潤いが少ない場合が多いのです。ムジークフェラインザールなどの様に2000人ぐらいの客席のコンサートホールでは問題ないのですが。
試聴室や試聴のイベントでも、極端にステージやスピーカーに近い場所を除き、少しオフセットすると言うか、どちらかによった位置は意外と良いものです。
「どこに座って聴くのが良いか」だけで、文章が書けてしまうほどですから、今回はこの程度にしておきましょう。
萩原光男