防音対策についてのお話 その3

環境計量士 N I

私も長いこと(なんと45年間)防音関係の仕事をしていますが、問題(皆様が困ってらっしゃる項目)になることが一番多いのは遮音関係でした。そして一番対策が難しいのも今回お話しする遮音関係だと思います。隣の室の音がもれてやかましい、会議や話の内容が隣の室にいる人に聞こえて漏れてしまう等の不具合が多く発生しています。これらの対策に主に用いられるのが遮音対策/材料です。

前回のブログでお話しした通り、今回は「防音」を構成する4種類の機能・材料の内で「遮音」についてお話しします。

遮音(Insulation)機能は、壁等に入射した音が隣の部屋等に透過しにくくなる機能を示しています。壁に入射し透過する音を、壁本体補強または材料(遮音材)を施工することで少なくします。代表的な材料としてはゴムシート、塩ビシート、鉄板、ガラス等があります。

まず機能面からお話しします。
遮音は空気伝搬音に対する概念で、声等の音が壁等にぶつかったときに隣室への音の透過を少なくするような機能です。図で示すと下記のようになります。例えば、壁に100dBの音がぶつかり隣室又は室内に70dBの音が透過する場合の透過損失(遮音性を示す尺度)は30dBとなります。

壁そのもの、または壁に遮音性向上を目的に付加された材料を遮音材といいます。

余談になりますが、騒音振動対策関係の本を読む機会が最近ありました。その本の中の一文を転写します。

「道路際の住宅の壁材料が厚いコンクリートと薄い板の場合では、コンクリート壁のほうが、室内に入る道路交通騒音が少なくなることはだれでもわかる。音波を遮る遮音材料の遮音性能についての結論はただそれだけである。材料は重いほうはよいのである、それが今でも軽くて遮音性が良い材料が開発されたなどという記事を時折見かける、しかしこのような材料はありえない、したがってこのよう記事などはすべて間違いであると思って間違いない」との記述があります(騒音振動環境入門、オーム社p.68)。

すなわち壁の重さのみで遮音性は決定されるというのです。なかなか面白い意見で、私もこの記述にはほぼ同意します。

上述のように確かに物の遮音性はほぼ重さ(面重量)で決定されますが、これでは防音の技術者が出る幕はないので少し補足を行います。さらに遮音材の使用方法(壁の開孔による遮音性の劣化)等についてお話しいたします。

〇壁等の遮音性について

壁等の遮音性(単一材料)は質量則で表せます。

一例を示すと下記になります。鋼板、ガラス等はある周波数域(コインシデンス領域)まで重ければ重いほど高くまた周波数軸に対しては右上がり(6dB/オクターブ)で上がっていきます。すなわち重いほど遮音性は優れることが明らかです。

ただその上の周波数域(コインシデンス領域)では遮音性の劣化が起こります。これは入射波壁面に沿う音速成分と壁体の曲げ波の速度が一致し、共振と同じような現象となり、壁体の透過損失は著しく下がるような現象です。特に硬くて内部損失のないような材料(ガラス等)の厚いものを使用する場合は注意が必要です。最近オフィスなどでよく採用される厚物ガラスの場合は800Hz以上でコインシデンス効果が見られ、人間の声などの遮音が必要な音の周波数に重なってしまい問題になることがあります。

そのために吸音性(および若干の遮音性)をブラインド施工によりガラス窓に付加して、人声が外に漏れないようにした例もあります。(→納入事例 「某映画配給会社 吸音ブラインド施工」

〇遮音材の使用時の問題の一例

更に重要な問題(遮音性劣化を起こす)として開孔(見た目ではなく音響的な孔)の問題があります。騒音の透過面をすべて均一な重い材料で遮蔽できれば大きな遮音性による低減効果が実現しますが、実際の構造ではそうなっておらず、開孔、具体的には壁の端部の隙間やエアコンの空調の出口等があります。その場合の遮音性劣化状態は下記のようになります。

例えば孔が10%あると、本来30dB(1000Hz)の遮音性がある材料でも遮音性は10dBになってしまいます。こうなると隣室の声が聞こえる等の問題が起こりやすくなります。

実際の防音対策現場では、どのような問題が出ているか(お客様の要望)を把握して、どんな原因(例えば壁工場自体が遮音的に弱い;例えばコンシデンス効果が表れている、GL工法による遮音性劣化等)あるいは、エアコン吹きだし孔、壁と隔壁端面での隙間等による音響的な開孔の問題なのかを素早く把握して、その対策案を立案することが求められます。最近では音の流れを可視化する装置(高価ですが)も出てきており、その利用も考えられます。

このようにして、防音対策を立案していきます。また手持ちの材料の遮音性データをしっかり評価して保持することも重要であると思います。

遮音材は防音(音を防ぐ)のためには非常に重要な機能ですが、結構使い方が難しいです。遮音(材料、機能)をよく知って使用することが重要となります。遮音の性質を理解して適切に使用することにより、快適な音環境を実現するのに有効な材料となります。