西洋の巨大建築物と空間音の捉え方 その2

今回紹介する音楽は「主よ、人の望みの喜びよ」です。

残響や、ホールの音や暗騒音にも注意を向けて、バッハを聞いてみましょう。


2、西洋巨大建築物の音や、身近な空間の音を味わう

ロンドンのセントポール大聖堂やドイツはケルンのドームなど大きな建築物の音についてと、その延長として私達の身近にあるコンクリート造りのマンションなどの空間音について考えていきます。

聖堂に見られるような、天井が高くて床面積も大きい石造りの広い空間の音ですが、ミサの時にここで歌われるアカペラのグレゴリオ聖歌やオルガン曲は10秒ぐらいの残響が付加され演奏されます。
この残響に新たに次の音声が重なることで、合唱のような効果が生まれ、豊かな音楽が作られます。

日本ではこのような、長い残響が聞ける空間は歴史を紐解いても存在しません。現在では音の再生技術によって長い残響の音楽を体験することは可能ですが、生活感覚としてイメージするのは難しいことです。

一つの音の、時間による変容や表情の変化は、音楽をより深いものにします。

日本の音と音楽の世界は、ジャズやロックを楽しむことによって西洋の音が身近になりましたが、もう一歩踏み込むとまだまだ奥深いところで違いがあるように思います。

大聖堂やドームでの音楽とそこで発生する長い残響は録音された宗教曲などで確認していただくことにして、ここでは大きな空間や建物でできる空間音を時間的感覚で味わう方法について論じていきましょう。

*空間音を味わう

今回論じているような空間音を味わう時のお薦めの方法について、一言で「禅の心」と言ってしまいましょう。
つまり、なるべく心を空(カラ)にして、音楽の楽譜的な音以外の音にも気を配ってはどうでしょう。反射音や、ライブ音源のソースに入っている椅子の音やざわめきなどです。

①空間の音を感じる方法

まず、音楽における音の表情は所与の空間の状況によるものです。大きさ、響き方、床の条件、密閉度などあります。木造かコンクリートのマンションかは大きな違いですし、寒暖や季節による空気の湿度などでも変わります。

筆者は音楽を聞く前に空間の音を確認するのですが、試聴空間で試聴位置に着くと、一息息を吐きながらその空間の静けさレベルと暗騒音(対象としている音以外の騒音)の質を確認します。
このような作業は、極論すると禅に通じる世界と理解すると良いと思います。生理学的には、心を落ち着けて、副交感神経優位の精神状態で聞くのがお薦めです。

音楽の音は、その空間の暗騒音に乗って伝わります。特に弱音部やピアノ・ピアニッシモの表情はそこで大きく決まります。

◎開眼か閉眼か

暗騒音を聞いたり音楽を聞いたりするときに、目を開いているか閉じているかは大きな問題です。
実は、このことについては長いこと悩んできたのですが、結論として筆者のお薦めは開眼です。しかし視界は意識せず、視線は見上げず平行より下向きが音楽と音に集中できます。禅の世界ですね。

②空間の音傾向・必ずしも無音が良いわけではない

◎木造建築の音

木造建築の場合、完全密閉は無理なのでなんらかの都市騒音があります。この都市騒音も、聴覚的には切り捨てるのではなく、音楽を邪魔しない質のものであれば、広がり感などの雰囲気を作ります。
この時の暗騒音は、低音ほど下から聞こえ、時間的に長く続く音は聞く者を包み込み、雰囲気を作ります。

◎コンクリート建築の音

コンクリートのマンションなどでは基本的に密閉されていて静かなのですが、空調機の音など意外と暗騒音があります。最近はマンション住まいが多く、コンクリートの部屋は一般的なので、1階と2階、3階の暗騒音の違いについて考察してみましょう。

1階の部屋は床が大地で制振される効果などがあり静粛性が高い。それが2階3階などになると床が空間に浮いている状態なので、意外と低い音やいろんな暗騒音が伝わってきて、音楽を聞く時の音に影響するのです。

この、1階と2階3階の音には一長一短があります。

1階の音の静粛性は、セントポール大聖堂やドームのような音です。確かに静かですが、それが重く暗い雰囲気をつくり場合もあります。
2階3階の音は一般的です。床を伝わって到来する音は聞く人を包み込み音楽の雰囲気を作るのです。

空間音について要点だけを書いてみました。本記事を参考に、音と音楽の、少し違った聞き方で楽しんでいただければ、と思います。

萩原光男