ショパン国際ピアノコンクールに見る、音と音楽の今 その3
前回はピアノについて触れましたが、今回はその音についてです。
・スタインウェイの音、ファツィオリの音
ドイツ人によって生み出されたスタインウェイの音と、イタリアの新進気鋭ファツィオリの音を比較整理しておきましょう。
まず、スタインウェイに関してですが、「柔らかく歌う」ことが得意なピアノです。
第17、18回でスタインウェイの調律を担当した調律師は「ショパンのスタイルにふさわしい音。ショパンの演奏に合った、柔らかく歌うことのできる音を作ろうとしている」と述べています。長年ショパン国際ピアノコンクールで使い続けられ、音楽界でも実績のある王者のスタイルといえます。
スタインウェイの音は、過去の天才ピアニスト・ホロビッツの音に代表されると筆者は思っています。軽やかで、滑らかに転がるように音が繋がり、優しく包む音です。ウィーンの最高音質のホールの音にも繋がるゲルマン人の音、とは言い過ぎでしょうか。
一方、ダイナミックな音や切れ込みはストラディバリウスの系譜であるファツィオリに譲るかもしれません。
ファツィオリは広葉樹系の硬く引き締まった、艶とキレがある音でしょうか。細部の音の表現が得意な印象です。
第18回のショパン国際ピアノコンクールで優勝者の弾いたピアノを調律した調律師の話を紹介します。要約すると「なるべく一般的な音を目指した。スタインウェイの柔らかく歌うことができる音に対して、ファツィオリは色彩感とダイナミックなボリューム感を重視して、細かい音を整えた」とかなり対照的です。
・ゲルマンの音、ラテンの音
今までピアノはゲルマン系の国々で作られてきました。ピアノ自体はイタリアで発明されたのですが、それを音楽に使えるように完成させたのはドイツ人でした。それからフランスやイギリスでも作られましたが、これまでイタリア製で音楽を語れるピアノはなかったのです。
イタリアというラテンの国で作られた最高のピアノ、ファツィオリは大きなインパクトをもたらすこととなりました。スタインウェイとファツィオリの音の違いをゲルマン人とラテン人の音の違いと読み変えて味わうのも良いかもしれません。
筆者はオーディオと言う音の世界で仕事をしてきて、楽器が作る音と音楽を見てきたわけですが、新しいピアノの登場で音楽がどう変わっていくか大いに興味があります。
プロのピアニストが最も多く使うスタインウェイは、今回のショパン国際ピアノコンクールの首位奏者には使われませんでした。次のコンクール開催までまた5年あるわけですが、王者スタインウェイがどう対応するか、演奏する側はどうかなど、興味深いものがあります。
平穏なクラシック音楽界ですが、こんなところに音と音楽の変化のきざしが見えて楽しみです。