曲面の音、ささやきの回廊の不思議
今回ご紹介するのはジェームス・テーラー「君の友達」です。
ジェームステーラーのアコースティックギターの弾き語りライブがあったのですが、ホールの響きは、セントポール大聖堂の響きにも通じる余韻の長さと輝きがあると思います。
セントポール大聖堂はロンドンにあります。ウエストミンスター寺院がイギリス王室がらみのイベントが行われるのに対して、こちらは「市民の大聖堂」として古くからロンドン市民に親しまれ、英国が関わった二度の世界大戦の勝利を祝賀する式典の場とされてきました。

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曲面の音、ささやきの回廊の不思議
音響の世界での、曲面の効果について話しています。
今回紹介する「ささやきの回廊」は、遠く離れた場所での会話がまるで手元の囁きを聞いているように聞こえてしまう不思議な音響効果です。
ささやきの回廊で有名なのは、図1のようにロンドンのセントポール大聖堂の建物の、上下方向の中間にある円周状の廊下です。

セントポール大聖堂は最初607年に建てられましたが、現在建っているのは1666年に焼失したあと35年かけて作られ1710年に完成したもので、高さ111m、幅74m、長さ157mあります。
セントポール大聖堂のささやきの回廊は、中央ドームにあります。回廊の構造は図1のピンク部分に示したように、中央ドームの中間にドームに沿って円周状の廊下があります。この廊下では、反対側でつぶやいた小声が明瞭に聞こえてしまうのです。
この現象は、理論的には反射音の効果で説明できます。
円周状の廊下の壁面が多くの反射経路になっていて、その経路の微妙な距離の違いで生じて、わずかに時間がずれて受音点に到達した音波が重なって強調されて聞こえるのです。
図2に示したのは、複数の反射経路によって声が伝わる様子です。

ささやきの回廊だけでなく、曲面の音への効果ですが、曲面やドーム状の構造には、その曲面を伝わった音が強調する効果があります。セントポール大聖堂はじめ多くの大聖堂の天井はドーム状になっており、聖歌の歌声を強調したり、滞空時間の長い響きを作ります。オペラハウスも天井がドーム状だったり、ウイーンのオペラハウスのようにホール自体が円形のものがあり、特に人の声が強調され、低音も豊かになります。
しかしこのような構造も、強調されすぎるとビンビンという共鳴になることがあるので、壁面に意図的に凹凸をつけて調整します。
ささやきの回廊は、セントポール大聖堂のほか、アメリカのスタッフォード大学図書館や日本でも神戸国際会館の円形庭園も有名です。
萩原光男