3つの音のエッセイ

今回のテーマは、晩秋の音です。
晩秋の哀愁と言えばブラームスの交響曲第4番です。冒頭のバイオリンは哀愁そのもの。ブルーノ・ワルターが指揮しているものを聞いてみてください。

晩秋は、最高の音を味わう季節

晩秋から冬にかけては最高に音が良い季節です。美しい音をテーマに、世界の都市と音楽の話をしましょう。

前回、素材の音の話で、良い音や好まれる音は「爽やかな音」と書きました。
音の爽やかさとは、スッと音が立ち上がってサッと消えていく立ち下がりの速い、いわゆるヌケの良い音です。
ヌケの良い音はヒトの感覚器に適度な時間とどまって、サッと消えていきます。

空気が乾燥すると音自体も軽く爽やかになりますが、時間をかけて建物などが乾燥していき、身の回りのもの全て、まるでこの世が音楽のためにあるかのように変化します。楽器も、部屋の壁も、テーブルの上の紙も、衣服も、あたかもその空間が良い音のためにあるかのように。出る音、反射する音がより爽やかになるのです。

「都市の音」は都市の風土によって出来上がります。

高緯度で平均気温が低い地域の音は、空気に含まれる水分が少ないので軽く爽やかな音になります。平原にある内陸性気候の都市は、夜と昼の気温差が大きく、昼間暑くても夜は気温が大きく下がります。大気中の水分が絞り出され乾いた空気なので、音も乾いて明るいです。

前者は北欧の国、後者の内陸性気候はウィーンで見られます。ウィーンなどは、日本から安いバイオリンを持っていっても、現地で少し生活していると素晴らしい音のバイオリンになると言われるほどです。

西洋音楽の生まれた西欧は北半球の高緯度地域にあり、クラシック音楽の中心地であるオーストリア、フランス、ドイツ、イタリアもこのような気候です。日本でも、そういった地域のように気温が下がって乾燥する気候になると良い音になるのです。

ここで音楽の都市を緯度で見てみましょう。(それぞれ北緯で表しています)
ウィーン48度
パリ48度
バイオリンの名器ストラディバリウスができたクレモナは、45度です。
ローマ41度
ニューヨーク40度
ボストン42度
札幌43度
東京北緯35
多くの音楽都市が高緯度にあり、東京はかなり緯度的に低い位置にあります。

音楽の国の音がどうか、緯度で比較してみてください。

萩原光男