素材の「音」に拘る(2)好まれる音、憧れる音

少し高台にある駅で電車を降りると遠くから小さな音で、なにやら楽しげな音楽が聞こえて来ます。
改札を出ると、ノイシュヴァンシュタイン城を模した見慣れたお城が見えて、特別な一日が始まります。

少し脚色して書いてみましたが、これは京葉線舞浜駅で下車して東京ディズニーランド(TDL)に向かう道のりです。家内や息子たちがコアなTDLファンなので、年に何回かディズニーランドに行きます。
ここはアミューズメントのノウハウが蓄積されていて、毎回行くたびに発見があります。
音の仕掛けもたくさんあって、上記のように電車を降りた瞬間から序奏が始まり、そこからディズニーランドの雰囲気に入っていくのもその一つでしょう。
もしここが緑の多い森の中だとしたら、また違う雰囲気ができるのだと思います。森で高音が吸音され、華やかさよりもしっとりした重厚な雰囲気になりそうです。

ディズニーランドの建物や構造物は、紙やプラスチックのハリボテではなく重量のある石や鉄の鋼材が使われていて、施設の本物感を出しています。城壁や庭の造形も、本物の鉄や石を使わなくては、本物の音は出てこないのです。

前置きはこのくらいにして、今回のテーマは好まれる「音」、憧れる「音」の条件やその要素について考えていきます。

1、好まれる音・憧れる音にある「爽やかさ」
好まれる音は、爽やかな音です。
音の爽やかさとは、どういう音かと言うと、ヌケの良い音、ヒトの感覚器に適度な時間留まって、スッと消えていく音です。
どんなに快い音でも、いつまでも同じ刺激を受けていると疲労感を感じます。
また、人体の感覚器は、「有ること」と「無し」の状態の対比で心地よさを感じるもののようです。

2、繰り返し打ち寄せる、波の音に感じる快感
有と無の繰り返しに感じる心地よさの代表的な音は繰り返し打ち寄せる波の音ではないでしょうか。
海辺に生きる人々は、波の音、それが自然の有り様だという諦念と共に自然に包まれる安心感があるのでしょうか。
ザザッと繰り返し洗い流すような波の音にある中域から中低域・低域にかけての周波数成分に、心が洗われる思いをすることでしょう。

専門的には、この波の音には次のような聴覚心理に基づき音響的な分析がなされています。
*「揺らぎ」
揺らぎとは、定まっていないランダムな時間間隔で届く感覚刺激のことです。
波の音を始め、窓を細めに開けておくと、そこからの風でカーテンが不規則に波打ったり、遮光で下げられているブラインドが揺らいで不定期にコツコツあるいはカッカッと窓枠に当たる音には、読書をしたりまどろむヒトの心に届き、瞬時覚醒させまた集中やまどろみの世界に立ち戻ってゆく、快さがあります。
*1/f雑音(注参照)
波の音や揺らぎを構成する周波数成分は、周波数が低くなると段々にレベルが高くなっていくという周波数成分の構成になっています。
これも、快い音の周波数スペクトラム構造の基本です。
*自然であること
以上は、大自然がなすワザと言えるでしょう。
人間は20世紀に沢山の便利な物、生活を豊かにするものを作り終え、あたかも自然の摂理を乗り越えたかに思った時、実は大自然の中にはさらに学ぶべきものがあったと言うことを学んだようです。
不規則性、ランダム、非機械的動作に感じる人体の生理的感覚の中に快さがあって、安らぎの音や逆に大きなインパクトを感じる音の法則があるようです。

人間の心の動きにもある気まぐれ行動ですが、実はこれこそ21世紀のものづくり、AIの原点なのです。

(注)1/f雑音について
エフ分の1雑音と読みます。fとは周波数のことで、周波数に反比例してレベルが高くなる雑音のことをいいます。1/f雑音では、例えば、周波数100hzに対して、50hzでは倍のレベルになるなどの傾向があります。自然界の雑音は、こう言った特性のものが多くあります。

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萩原光男