防音対策についてのお話 その4

環境計量士 N I

今回は防音対策の一分野であるで『制振』についてお話しします。

制振材は一般的にはあまり知られていませんが、制振材(制振塗料含む)が使用されている場所としては自動車の車体(非常に多く、筆者推定でほぼ1500万m²/年)、鉄道車両、食器洗い機等の家電、建築ではサッカー場の屋根(雨音対策)、風力発電装置の機械部外板内側)等があります。
全部、外部には露出しないような形で使用されているので分かりにくいですが、色々なところで活躍しています。

今回はこの縁の下の力持ちのような制振材についてお話しします。

(1)制振対策とは

防音という概念の全体像については最初のブログでお話ししましたが、再度掲載します。
図-1は「防音」の内容について機能別の分類を示したものです。一般的に防音対策はこの図に示す4つの機能を持つ材料、構造の組み合わせ効率的に防音対策を行っています。①の吸音と②の遮音はいわゆる音(空気伝搬音)ついての機能、③の制振と④の防振は振動(個体伝搬音)についての機能です。

さて、今回取り上げる『制振』は振動(個体伝搬音)に対する機能です。音に対する吸収は『吸音』でしたが、制振は下図の③(赤丸部分)に示しているように振動に対する吸収を示しています。すなわち制振性材料(板)の付加により板の振動が吸収され(熱に変換)、結果的に振動が減衰し、発生音を少なくするという機能です。

図-1 防音対策のカテゴリー(機能別)

振動に関係する話は今回のシリーズでは初めてです。音についていえば、人間は結構高性能の測定器、つまり耳を持っており日常的に使用しています。振動については、筆者の場合ピックアップ等の振動測定装置でも手で触る等の方法で感じていましたが、少し分かりにくくなるかもしれません。

一般的に音波は物体の振動によって発生しますが、振動体に貼り付けて振動のエネルギーを吸収し空気中に放出される音波を低減するため、制振材料という材料がよく使われています。
時折、薄くて制振性能が良い材料が開発されたという記事を見かけます。しかしながらこのような制振材はありえません。材料の制振性能は主にその厚さで決まるからです。材料にもよりますが1㎜厚の板が振動して音波が発生している場合、2㎜以上の制振材料を貼らなければ効果はほぼありません。厚さ0.5㎜の制振材料などは何の効果もないです。

(2)制振材の種類(構造別)

制振処理とは振動体の振動エネルギーを制振材料によって熱として消滅させることです。
例えば、鋼板が振動して音波を出している場合はケース1(非拘束タイプ)が考えられ、その鋼板に制振材料を塗ったり貼ったりします。あるいは、ケース2(拘束タイプ)のように制振材料の上に上面の変形を拘束する剛性のある板をつけたり、さらに鋼板の間に制振材料をサンドイッチした制振金属板を使用したりします。

振動によって板の表面が凸凹の変形を繰り返す場合、ケース1の場合は材料が伸縮、ケース2の場合はズレも生じて材料の内部摩擦により振動が熱になって消滅し、発生する音波は小さくなります。

(3)制振材の性能の表示

材料の制振の能力は損失係数η(イータ)で表せます。ηは振動エネルギーの吸収の程度を表すもので、損失係数の数値が大きいほど制振性が良いということになります。
例えば一般の材料では金属のηは0.0001~0.001、ガラスで0.001~0.005、コンクリート、レンガが0.001~0.01程度、木、コルク、合板で0.01~0.2、ゴムプラスチック類で0.001~1程度です。一般的に制振されているのはηが0.05以上ある場合といわれています。

他にも、比較的薄い金属板の制振に使用されているアスファルト系の防振塗料、厚い鋼板の場合によく用いられるプラスチック系制振材料などがあります。制振材料はゴム、プラスチックなどをベースに作られていることからも推測されますが、損失係数は周波数によってはさほど大きな違いはありません。ただし、温度によって大きく変わるので注意が必要です。

(4)制振材の使い方

さて、制振材料や制振処理はどのような状態で使用すれば効果が得られるのでしょうか。

振動体が機械的加振によって音が出るような場合、板の振動は加振点付近を除き、主として拡散振動成分の振動であり、これによって板から音が出ているとみなすことができます。制振材料によって吸収できるのは拡散振動成分なので、この場合は制振効果が期待できます。

実際の機器などでは加振状態を確認することが難しい場合がありますが、機器には何らかの機械的加振が存在するので、対策にあたっては実験的に制振材料を使用してみたりして効果を確認してから最終処理を決めるのが有効です。制振材による効果が得られない場合は材料が悪いのではなく、使い方の問題かもしれません。一つの目安として損失係数が0.05以上、振動体(鋼板など)の厚さの2倍程度になることが望ましいとされています。

車でDIY制振材施工(床、壁の黒い部分)

(5)貼りつけ場所の最適化

振動エネルギーの吸収は制振材料の伸縮などにより行われるため、共振によって音が出ている場合は共振のピークを抑えるために変異の大きいところを探して制振処理をします。拡散振動によって音が出ている場合には、振幅分布が一様で髷も一定であるから、一様に制振処理をすれば良いことになります。

(6)制振処理による騒音低減効果

制振による振動の低原料と法遮音の関係は一般的に不明瞭であるため、制振による騒音低減効果を量的に求めるのは難しく、実際には経験などから推定されます。一般的に制振処理によってオーバーオール騒音レベルが10dB以上も低減することはまれです。

1つの目安として、ある周波数の制振処理前後の損失係数をη1、η2とすると、共振の場合にはおよそ20logη2/η1[dB]、ランダム加振の場合にはおよそ10logη2/η1[dB]、その周波数による音圧レベルが低減し、周波数が高くなるにしたがって若干低減量は増す傾向にありますが、実際にはほぼ同じとみなして良いようです。

(7)最後に

制振機能とか制振材は防音(音を防ぐ)ために機能4種類の内の1分野に分類されていますが、振動を減衰させる機能ですので、感覚的な理解が難しく、結構使い方が難しいです。見切りが難しいですが、振動が起因し騒音が発生している場合は制振(材料、機能)は非常に有効な方法になります。材料の特性等をよく知って使用することが重要となります。