旅のメモリー・音のメモリー・そこにあるエキゾチシズム~

旅先で様々な音、響き、音楽に出逢います。
繁華街を歩くと聞こえる、店の音楽、連れ立って歩く若者の笑い声、それは日本で聞くのとどこか違っていて、空気の乾燥度や気温、或いは検問の厳しい国など、と言った環境でも違います。独特の”響き””音”があります。
帰国して、日常のなかでフッとそんな音を思い出す時があります。

旅のメモリー、音のメモリーですが、ヒトの五感は、視覚優位のため、「音のメモリー」は記憶としてなかなか心に残りません。
音のメモリーを心に留めるために、何回かの海外出張のあと、心がけるようにしたことがあります。
それは、まるで現地で生活しているかのように、地元民のように普段着っぽい服を着て街を歩くこと。
地元の人が行くカフェで現地人みたいな顔をしてコーヒーを飲みます。
仕事柄、コンサートやジャズクラブに行きますが、そこでは、少し気取ってデートでもしてもいいような気の利いた服装で行きます。

今回は、音楽と風土について書くつもりが、ちょっと外れてしまいましたね。
しかし、そのように現地人ぽくして旅先の風土を味わうと、外国での音と音楽の心への残り方も違ってきます。

音・音楽・意匠と風土は強く結びついています。
その強烈なものは、シベリウス※のバイオリン協奏曲の冒頭のバイオリン。凍てつく氷原を吹きぬける寒風の様に、奏されます。
カンツオーネを聞けば陽光眩しいイタリアを、バッハ・ベートーベンを聞けば何事においてもパワフルで活動的なドイツの逞しい力を感じます。

※シベリウス:フィンランドの後期ロマン派の作曲家(1865年生まれ)バイオリン協奏曲、作品47

風土は言い換えるとマーケッティングです。商品はマーケットリサーチをして、市場のテイストに合わせて完成させます。
オーディオ機器も、その国のディーラーを訪問したり雑誌社を訪問したりして、音を聞いてもらいアドバイスを頂いて、市場特性にあわせてチューニングして完成させます。
その時どのように音を合わせるかと言うと、そこで聞いたミュージックソースを購入して、低音、中音、ボーカルなどをチューニングして完成させます。

結局、ソースが決め手です。そして、そのソースは必ず現地で調達します。CDなどのパッケージされたミュージックソースは、洋楽の場合、輸入された国でもう一度リマスタリングして、音のテイストを日本の市場に合わせて作り替えられ、流通されるからです。
このように、同じアーティストの曲でも、日本で購入したソースと現地で購入したソースでは音が違う場合が多いのです。

現地調達、これは結構重要なことです。外国へ行って、お店ではやりの服など買いますが、音楽ソースも現地調達するのです。
とは言っても、最近はネット配信でどこで買ってもオリジナルが聞けるようになっていますが。

音の世界で生きてきて、「その都市の音はそこのコンサートホールの音」だと思い、いろんな土地を訪れコンサートホールで聞きました。

海外を訪れる、と言ってもバックパックの旅行者気分で、街を歩くのと、現地人みたいにして散策するのとでは心に残るものを違ってきます。
「音」という五感の優先度の低い世界ですが、それを心に残すための工夫も楽しいものです。

異国を訪れるとその土地ならではの、デザイン、色使いに出会い、感動しましたが、「音」についてもそこの風土で出来上がる音に味わいがあります。

東京ブラインド工業も展示会や技術交流で欧州のいろんな国と交流があります。
製品の中に、そんな「音のメモリー」やエキゾチシズムを感じて頂ければ、と思います。

萩原光男